Presentor: 安積 隆夫氏 (QST)

Title: 市販のグリッド付き熱カソードを用いた低エミッタンス電子銃の開発

グリッド付き熱カソードは取り扱いが容易であることから、多くの加速器施設で使用され
てきた。しかしながら、グリッドのレンズ効果のため、2 mm \mrad以下の規格化エミッタ
ンス が要求される軟X線FELでは使えないとされた経緯がある。我々はグリッド付き熱カ
ソードの高保守性、長寿命といった優位性に着目し、これによる低エミッタンスビーム生
成を検討した。グリッド近傍の電場歪みと電子軌道について、物理モデルによる解析とシ
ミュレーションの両面から評価した。その結果、グリッドを通過する電子軌道がビーム軸
に平行になる条件の存在し、このとき電子分布が均一でかつ最小エミッタンスを与えるこ
とを見出した。これは、わずか50kVのカソード・アノード電圧で実現でき、2 mm mrad以下
/1nCの高品質ビーム生成できる。この低エミッタンスビームは、電子銃に直結した238MHz
高周波空胴により、即座に500keVまで加速することで、空間電荷効果によるエミッタンス
増大を回避する。以上のスキームに基づいて新型電子銃を製作し、実証試験において、シ
ミュレーション結果と一致するビーム性能を確認した。

現在、建設が進められている次世代放射光施設の3GeV線型加速器では、この新型電子銃を
装備した入射部が使用される。これに先立ち、プロトタイプ入射器(ニュースバル入射器)
によるビーム性能試験が実施され、入射部においても所定の性能に到達していることを確
認している。

本セミナーでは、新型電子銃の設計思想、シミュレーション計算、実証試験、プロトタイ
プ入射器におけるビームコミッショニングについて説明し、次世代放射光施設について
(線型加速器を中心に)紹介する。